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南トルコ・アンタルヤの12ヶ月*** 地中海は今日も青し

南トルコ・アンタルヤの12ヶ月*** 地中海は今日も青し

 (3)イェシル・チョルバス、そして


《12月―チョルバの誘惑》 (2003年12月の記録)

 第3話 イェシル・チョルバス、そして試行錯誤の日々

3晩目。義妹がイェシル・チョルバス(緑色のスープ)を教えてあげるという。
緑色のレンズ豆をベースに、ほうれん草の茎とエリシテ(短くて細い手打ちパスタ)を加えるのだという。
ほうれん草の茎は、前日クイマル・ウスパナック(挽肉入りほうれん草の煮物)を作る際、葉だけを使った、その残りである。

日本ではアク抜きのため下茹でしてから使うことの多いほうれん草だが、トルコでは下茹ではしないのが普通。水を加えず野菜そのものの水分でじっくり煮ることの多いトルコ料理では、ほうれん草も同様。下茹でしてしまったら、旨みも水分も抜けてしまう。
すると、毒性のあるという蓚酸の処理はどうするのだろうか?
ほうれん草の煮物を食べた後、かならず歯の裏にざらっとする感触が残る。蓚酸の存在を気にしながらも、なるべく小さく刻んでから水で揉むように洗うことくらいしか、私には考え付かなかった。

義妹は、水を張ったボウルに塩と酢を加え、そこにしばらく漬けておくのだと教えてくれた。その後、シンク一杯に水を張って、揉むように洗う。2~3回水を替えながら、水が緑色にならなくなればオーケーだ。
この日使う茎も、エリシテの長さにあわせて短くちぎった後、同様の処理をした。

鍋に水とレンズ豆を入れて火にかける。途中でほうれん草の茎とエリシテを加え、全体が柔らかくなるまでことこと煮こむ。油を熱し、サルチャを煮溶かしたものを加えて終わり。
緑色のレンズ豆は赤レンズ豆の二回りも大きく、また皮付きなのでなかなか柔らかくならず、豆が柔らかくなる頃には、エリシテはふんにゃりと伸びきってしまった。
緑色のスープと聞いた時は鮮やかな緑色を想像したのだが、レンズ豆は緑色というよりグレーに近く、またほうれん草の茎も煮るうちに色が無くなってしまったので、出来上がったスープの色はグリーングレーと言った方が相応しかった。

緑色のレンズ豆は赤や黄色に比べると、実に豆らしい味がしていた。豆臭いといってもいい。皮がはがれて浮かんでいるところを見て、納豆の味噌汁を思い浮かべた。
これは姪の大好物だそうで、お代わりして食べていたが、私は正直言って1杯で十分だった。やっぱり日本人。見た目の美味しさにも影響されてしまうのだった。


義妹たちがエスキシェヒルに帰ってしまうと、反動で和食やカレーなどのメニューが続いたが、夫が日本に発って再び子供中心の食生活が戻ってくると、俄然チョルバが作りたくなってきた。
過去2年のうちに、子供たちはすっかりチョルバ好きになってしまっていたのだ。
上の娘は味噌汁も好きで、熱々のところをお代わりして飲むほどだが、下の娘はなぜか味噌汁にいっこうに慣れず、反対に幼稚園で出されるチョルバにはまたたく間に慣れて、今ではパンを小さくちぎってチョルバの中に沈めてから食べる、すっかりトルコの子供になってしまった。

最初に作ったのは、やっぱりメルジメッキのチョルバだ。
サルチャとナーネの量を控えめにし、こくを出すためにバターを使うことで、私なりの味が出来上がった。にんにくを煮込むときに入れ忘れたので、ソースの方に擂って入れたのだが、かえってこうした方が香りが良くなるようだった。
その後もう1度作った時は、煮込む時に余ったトマトも擂って入れたのだが、ソースににんにくを入れるのを忘れたので、若干酸味のある、香りのもの足りないチョルバになった。

次にトライしたタヴック・チョルバスは、ぐっと味が向上して美味しくなった。
骨の量は前回に比べると少なかったが、腿肉を使い時間をかけてことこと煮込んだので、鶏の旨みのよく出たタヴック・スユが出来上がった。それに、思ったとおりバターを使うことでこくと色を出すことができた。
これには子供たちも、学校と同じ、レストランと同じ、と言いながら喜んでお代わりしてくれた。

その後、まだ袋の3分の2が残っている緑色のレンズ豆を使って、今度こそ緑色のチョルバを作ろうと奮闘したが、これはうまくいかなかった。
中にブロッコリーを大量に刻んで入れ、豆の皮を入れないように漉して滑らかにした。しかし、サルチャ入りのソースを加えると、緑色と赤色が混ざり、茶色がかった何とも表現し難い色のチョルバとなった。
味は決して悪いわけではないので、下の娘は飲んでくれたが、上の娘は見るなり「イ~レ~ンチ!(イヤだ~)」と言って手をつけようとしなかった。

 (つづく)

第4話 チョルバへの誘い(いざない)



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